(1)直接命令形式(命令形) 大阪人は、普通、命令文に命令形を使うことはあまりありません。命令形は大阪人にはかなり強制的な言い回しに感じますので出来る限り使いません。使うとすれば、「アホ言え![○▼・●○]」「ウソこけ![○●・○▼]」のような反語表現や、「ええ加減にせぇ[○○○○○○・●○]」のような慣用句が主だと思います。 平板型アクセントの動詞・・・最後の音のみが下がる中下がり型アクセントとなります。
尻上がり型アクセントの動詞・・・五段活用の2音節語の場合には、最後の音が音節の途中で下がります。その他の2音節語は、頭高アクセントとなり、3音節以上の語は最後から2番目の音節が高い中高型になります。
例外:頭高型アクセントの動詞・・・アクセントは変わりません。
命令形に助詞「や」をつけると、迫る感じが出ます。 「言えや[●○・○]」、「着ろや[●○・○]」など この時、「や」は、低いアクセント[○]で発音します。 |
(2)直接命令形式(連用形) 普通、相手に何かをさせたい時、命令形ではなく、連用形を使います。これは命令口調の強制的なニュアンスを幾分やわらげる効果があります。 平板型アクセントの動詞・・・平板アクセントになります。但し、一段活用語、サ変、カ変語は、母音を伸ばします。
尻上がり型アクセントの動詞・・・一段活用とカ変の2音節語の場合には、母音を伸ばして平板アクセントとなりますが、その他は尻上がりアクセントとなります。
例外:頭高型アクセントの動詞・・・平板アクセントになります。
連用形に助詞「や」をつけると、迫る感じが出ます。 「言いや[●●・●]」、「食べや[○○・●]」など この時、「や」は、高いアクセント[●]で発音します。 また、連用形に「ぃな」「ぇな」をつけると、「何度も言わせずにいいかげんに〜してよ」というようなニュアンスになります。 「言いぃな[●●○○]、「食べぇな[○●○○]」 この時、「ぃな」「ぇな」は、低いアクセント[○○]で発音します。 この連用形での命令の形で、最後の音を少し伸ばし途中でさげ、「食べ[○▼]」=「食べぇ[○●○]」という風に発音すると、命令口調が強まります。 |
(3)直接命令形式(連用形+「て」) 連用形に「て」をつけると、相手に投げかけるような感じになります。共通語でも同じ用法がありますが、大阪弁では「ワ」行五段活用語でウ音便が使われるのが特徴です。 平板型アクセントの動詞・・・平板アクセントになります。
尻上がり型アクセントの動詞・・・一段活用とカ変の2音節語の場合には、平板アクセントとなりますが、その他は尻上がりアクセントの待機がおこります。
例外:頭高型アクセントの動詞・・・平板アクセントになります。
連用形に助詞「や」をつけると、迫る感じが出ます。 「言うてや[●●・●・●]」、「着てや[●・●・●]」など この時、「や」は、高いアクセント[●]で発音します。 また、連用形に「ぇな」をつけると、下手(したて)にお願いする、おねだりするようなニュアンスになります。 「言うてぇな[●●・●・○○]、「着てぇな[●・●・○○]」 この時、「ぇな」は、低いアクセント[○○]で発音します。 また、連用形に「ぇや」も可能です。「や」と「ぇな」の中間的な意味合いです。 「言うてぇや[●●・●・○○]、「着てぇや[●・●・○○]」 この時、「ぇや」は、低いアクセント[○○]で発音します。 |
(4)反語命令形式 「〜しないか」という反語形式で「〜する」ことを相手に要求する形式です。 これには、 @未然形+「んか」・・・・・・・これは、命令形による命令を反語にした形 A連用形+「んか」・・・・・・・これは、連用形による命令を反語にした形 B連用形+「て」+「んか」・・・これは、連用形+「て」による命令を反語にした形 の3種類があります。 平板型アクセントの動詞
尻上がり型アクセントの動詞
例外:頭高型アクセントの動詞
「んか」の後に「い[○]」、「いな[○○]」、「いや[○]」をつけ、
「んかい」は少し責める言い方。「んかいな」はお願いする言い方。「んかいや」は迫る言い方となります。 |
(5)直接否定命令形式(終止形+「な」) これは、命令形による命令「言え」に対し、「言うな」というように、その動詞の動作をしないことを要求するときに使われる言葉です。五段活用語を除き、撥音便となる形も使うことができます。 平板型アクセントの動詞・・・終止形+「な」の場合には「な」だけが下がりますが、「んな」の形では、「んな」が下がって発音することもあります。ここではその場合のアクセントで表示します。
尻上がり型アクセントの動詞・・・終止形+「な」の場合には「な」だけが下がりますが、「んな」の形では、「んな」が下がりアクセントが1つ前にずれて発音することもあります。ここではその場合のアクセントで表示します。
例外:頭高型アクセントの動詞・・・平板アクセントの場合の形と同様になります。
命令形に助詞「や」をつけると、迫る感じが出ます。 「言うなや[●●・○・○]」、「食べんなや[○●○・○・○]」など この時、「や」は、低いアクセント[○]で発音します。 |
(6)直接否定命令形式(連用形+「な」) これは、上と同様にその動詞の動作をしないことを要求するときに使われる言葉ですが、連用形による命令「言い」に対する言い方です。 平板型アクセントの動詞・・・動詞の部分は連用形による命令の形と同じで、アクセントの低い「な」がつきます。
尻上がり型アクセントの動詞・・・動詞の部分は連用形による命令の形と同じで、アクセントの低い「な」がつきます。
例外:頭高型アクセントの動詞・・・動詞の部分は連用形による命令の形と同じで、アクセントの低い「な」がつきます。
助詞「や」をつけると、迫る感じが出ます。 「言いなや[●●・○・○]」、「食べなや[○●・○・○]」など この時、「や」は、低いアクセント[○]で発音します。 また、「いな」をつけると、「分かり切っていることを言わせないで」というようなニュアンスになります。 「言いないな[●●・○・○○]、「食べないな[○●・○・○○]」 この時、「いな」は、低いアクセント[○○]で発音します。 |
(7)直接否定命令形式(未然形+「んといて」) これは、連用形に「て」をつける命令に対する否定命令の形です。「言わないで」という意味になりますが、なぜか、「言わんで」とはあまり言わず、「言わんといて(言わないでおいて)」という言い方がされます。 平板型アクセントの動詞・・・平板アクセントになります。
尻上がり型アクセントの動詞・・・アクセントの待機が生じ、最後の音「て」のみが高くなります。なお、一段活用とカ変語は平板で発音されることがあります。
例外:頭高型アクセントの動詞・・・平板アクセントになります。
「や」をつけると、迫る感じが出ます。 「言わんといてや[●●・●●●●・●]」、「見んといてや[○・○○○○・●]」など この時、「や」は、高いアクセント[●]で発音します。尻上がりアクセント語はアクセントが最後まで待機します。 また、「ぇな」をつけると、下手(したて)にお願いする、おねだりするようなニュアンスになります。 「言わんといてぇな[●●・●●●●・○○]、「見んといてぇな[○・○○○●・○○]」 この時、「ぇな」は、低いアクセント[○○]で発音します。 また、「ぇや」をつけることも可能です。 「言わんといてぇや[●●・●●●●・○○]、「見んといてぇや[○・○○○●・○○]」 この時、「ぇや」は、低いアクセント[○○]で発音します。 |
(8)敬語による命令「連用形+なはれ」「連用形(音便形)+とくなはれ」 「なはる」は、動詞につける尊敬の助動詞で「なされ」が転訛したものです。同じ働きをする助動詞「はる」もありますが、命令形として使えるのは、「なはれ」のみで、「食べはれ」などとは言えません。「なはれ」はさらに人によって「なぁれ」とも転訛することがあります。 また、「とくなはれ」は「〜ておくれなされ」が転訛したもので、@「〜ておくんなはれ」→A「〜ておくなはれ」→B「〜とぉくなはれ」→C「〜とくなはれ」となったもので、これらの@〜Cまでの形は、いずれも使うことができます。 「なはれ」は、単に目上の人であるとか、少しばかり遠い関係の人に用いる言葉で、単なる尊敬語ですが、「とくなはれ」の方は、依頼する気持ちが強く表れます。 否定命令では、「連用形+なはん・な」「未然形+ん・とくなはれ」となります。 平板型アクセントの動詞
尻上がり型アクセントの動詞
例外:頭高型アクセントの動詞
この「なはれ」「とくなはれ」にも、次のような反語命令形式があります。 〜なはらんか[●○○○▲] 〜なはらんかい[●○○○○○] 〜なはらんかいな[●○○○○○○] 〜なはらんかいや[●○○○○○○] 〜なはらしまへんか[●○○○○○○▲] 〜とくなはらんか[●○○○○○▲] 〜とくなはらんかい[●○○○○○○○] 〜とくなはらんかいな[●○○○○○○○○] 〜とくなはらんかいや[●○○○○○○○○] 〜とくなはらしまへんか[●○○○○○○○○▲] |
(9)敬語による命令「お+連用形+やす」 「やす」は、京都弁で使われる尊敬の助動詞で一般的に使われますが、大阪弁では、主に動作を相手に薦める場合に用います。終止形など他の形で使われることはまれです。使われる語も限定されています。ここでは、使用例を示すにとどめます。 命令句としての用法 お入りやす[○○○○●○] お食べやす[○○○●○] ご免やす[○○○●○]・・・これは、名詞に「やす」がつく特殊な用法。しかし、この「ご免」はそれだけで命令形の意味を持つ。 慣用句としての用法 これは「いらっしゃい」「いらっしゃいませ」と同じで、命令形を用いて、「〜してくださって嬉しいです」という意味に使われます。 お出でやす[○○○●○]・・・いらっしゃいませ おこしやす[○○○●○]・・・いらっしゃいませ お帰りやす[○○○●○]・・・お帰りなさいませ |